歴史

中世の鎌倉を五感で味わう、名越切通 <鎌倉七口>

2020.09.08

歴史の遺構・切通し

南は海に、東西北の三方を海に囲まれた鎌倉は、敵の侵入を防ぎやすい天然の要塞といわれています。13世紀前半、執権北条氏の権勢が確立する頃、鎌倉は政治経済の拠点として発展しますが、物資や人々の往来が頻繁になるにつれ、その「天然の要塞」が外部との行き来の大きな妨げとなりました。
そこで山や丘などを掘削して人馬の交通を行えるよう整備したのが、「切通し」と呼ばれる道です。鎌倉周辺には現在でも数多くの切通しが存在していますが、中でも主要なのが「鎌倉七口」と呼ばれる、名越・朝比奈・巨福呂坂・亀ヶ谷坂・化粧坂・大仏坂・極楽寺坂の7つの切通しです。

これらの切通しは、単なる交通路だけでなく、経済的・軍事的にも重要な場所でした。
鎌倉七口は、鎌倉幕府が滅んだ後も、江戸時代から横須賀線が開通する明治時代にいたるまで、修復を重ねながら、交通ルートとして利用されてきました。

この記事では、そんな歴史の遺構「鎌倉七口」の中から、古道の雰囲気を未だに残す「名越切通」をご紹介します。

鎌倉と三浦半島を結ぶ要路・名越切通

名越切通は、鎌倉と三浦半島を結ぶ要路の一つです。鎌倉時代に尾根を掘り割ってつくられたとされる交通路で、鎌倉幕府の事績を記した『吾妻鏡』天福元年(1233年)8月18日条に、「名越坂」として登場したのが、史料にみられる最初です。明治時代に直下を通る横須賀線や県道のトンネルが開通するまでは、長い間幹線道路として使い続けられました。

改修等が重ねられてきたため、鎌倉時代の姿そのものではないものの、切通しの周辺には現在でも、鎌倉の防衛にも関係すると考えられている切岸(人工的な崖)や平場、岩窟寺院であるやぐら(横穴に石塔を建て納骨・供養する施設)などの遺構が存在し、中世都市の歴史的景観が未だに残されています。昭和41年には、国指定史跡にも登録されました。

お寺を訪ねながら切通しへ…

名越切通へのアクセスは、JR鎌倉駅または逗子駅から徒歩30分程度。今回は鎌倉駅の隣の逗子駅から目指してみることにします。JR逗子駅東口を出てロータリーの右手、「なぎさ通り」をまっすぐ進み、「池田通り」へ出たら右折。そのまま県道205号線沿いを進んでいきます。

しばらく進むと、右手に「岩殿寺」の看板が見えるのでお参り。

「坂東三十三観音」の二番札所である岩殿寺は、養老年間(717-724)に行基が開創したと伝えられる古刹。鎌倉時代には将軍家からの信仰も厚く、『吾妻鏡』には頼朝・政子・実朝らも参詣したと記されています。
明治時代には作家・泉鏡花がたびたび訪れ、『春昼』や『春昼後刻』など岩殿寺を舞台とした作品も生まれました。

山門を入ると現れる急峻な階段は、ここが霊場であることを感じさせる佇まい。階段を登りきると観音堂、その裏には、岩殿寺の寺名の由来ともなった石の観音像が祀られています。

境内から来た道を振り返ると、木々に包まれた家並みの向こうに海が見え、木々の間を通り抜ける気持ちの良い風を感じることができます。

白猿の伝説のある法性寺

岩殿寺を後にし、再び県道沿いをしばらく歩くと見えてくるのが、法性寺の山門。

法性寺は名越切通へと続くハイキングコースの途中にある、日蓮宗の寺院。

日蓮聖人が鎌倉で焼き討ちにあった際、山伝いにこの地に逃れてきた日蓮に、白猿が食べ物を畠から運んできてくれたという伝説があり、法難を救った地として元亨元年(1321年)に建てられたのが法性寺です。

正式名称を「猿畠山法性寺」といい、「猿畠山」と書かれた山門の扁額の両脇を白猿が取り囲んでいます。

「名越切通」の案内板に従って、本堂脇の坂道と階段を上りきると奥の院、その傍らには日蓮聖人が白猿に案内され難を逃れたとされる岩屋があります。

大規模な石切り場跡・大切岸

奥の院をさらに進んだところにある墓地の裏手に見える、大きく切り立った崖が「大切岸」です。

大切岸は高さ3〜10メートルにもなる切り立った崖が、長さ800メートルにも連なる遺構。近年の調査によって、14世紀頃の大規模な石切場(板状の石を切り出した場所)の跡であることが判明したそう。
荒々しい岩肌がダイナミックです。

まんだら堂やぐら群

大切岸の脇道に、名越切通へと続く道があります。ここから山道になるので足元に気をつけながら進んでいきましょう。

山道を進んでいくと山中にあるのが「まんだら堂やぐら群」。

やぐらとは、崖に四角い横穴を掘り、内部に石塔を建てるなどして納骨・供養するための施設。ここ「まんだら堂やぐら群」は、150以上以上ものやぐらの存在が確認されている遺跡です。これだけまとまったやぐらを良い状態で見られる場所は鎌倉市内にも少なく、大変貴重な史跡となっています。
年に数回、限定公開されており、2020年は10月下旬〜12月中旬の土日月祝日(25日程度)を予定しているとのこと。詳しい日程は逗子市のホームページをご参照ください。

むき出しの岩肌がダイナミック・切通し

まんだら堂やぐら群を後にし、しばらく進むとようやく名越切通に到達します。

尾根の岩盤を掘り割って作られた道で、両側を急な崖に囲まれています。最も高く切り立ったのが「第一切通し」。

近年の調査により、現在の路面の下には少なくとも4回、道路を補修した痕跡が確認され、最下層の路面からは江戸時代以降に作られた焼き物の破片が出土したとのこと。
江戸時代以降、大地震等を経て何度か改修を重ね、現在の光景が作られてきたのです。

むき出しの岩肌が両脇に迫り、その間を通り抜ける秘密の回廊のような道は、非現実感がただよう空間です。かつてここを往来した人たちに思いを馳せながら通り抜けると、すぐ向こうが出口。外には住宅地が広がっており、急な時代の変化に不思議な気持ちを味わえます。

様々な時代の営みの遺構を五感で味わえる名越切通と、その周辺。ぜひタイムトリップ気分で、ゆっくり味わってみてはいかがでしょうか。

名越切通

住所〒249-0008 神奈川県逗子市小坪
開園時間通年
入場料無料
駐車場なし
URLhttps://www.city.zushi.kanagawa.jp/syokan/syakyou/newbunkazai/nagoe/nagoe.html
記事を書いた人
逗子在住。外資系出版社勤務の傍ら、2016年よりライターとして活動開始。2020年2月よりフリーランス。街角の園芸活動や植物に魅了され「路上園芸学会」を名乗り魅力を発信。 ウェブメディアを中心に、街歩きや植物に関する取材記事、インタビュー記事などを執筆。2016年よりデザイナーの藤田泰実とともに路上観察ユニット「SABOTENS」としても活動。組み合わせると路上園芸の風景が作れる「家ンゲイはんこ」の制作や、国内外での作品展示・グッズ販売を行う。