谷戸の緑豊かな風景と桜を満喫 妙本寺

2023.03.14

鎌倉幕府の重臣・比企能員一族ゆかりの寺

鎌倉駅東口から徒歩約8分、若宮大路を渡り、本覚寺を超えて夷堂橋を渡って進んだ山間にあるのが妙本寺。ここ妙本寺は、身延山久遠寺、池上本門寺と並ぶ日蓮宗最古の寺院です。

妙本寺がある一帯は、比企ヶ谷(ひきがやつ)と呼ばれる谷戸。ここにはかつて、鎌倉幕府の重臣・比企能員(ひきよしかず)一族が住んでいました。
比企一族は、鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝の乳母をつとめた一族で、党首・比企能員は、頼朝の右腕として活躍した武将でした。しかし、比企一族は建仁3年(1203年)に「比企の乱」により、北条一族によって滅ぼされました。比企の乱の時に、まだ幼く京都にいたため生き延びた能員の末子・能本が、比企一族の菩提を弔うため、自分の屋敷を日蓮聖人に献上したのが、妙本寺のはじまりといわれています。

鎌倉駅からほど近い場所にありながら、谷戸の深く豊かな緑と、境内を彩る季節の花々が魅力的な妙本寺。この記事では「花の寺」としても知られる妙本寺の春の風景をご紹介します。

妙本寺の3つの門

妙本寺の境内は、二門(総門・二天門)二堂(本堂・祖師堂)という、日蓮宗の典型的な伽藍で構成されています。
まずお寺の入り口に鎮座しているのが「総門」。この総門は天保年間に建立され、関東大震災で倒壊しましたが、大正14年に再建されました。

総門をくぐり、右手の参道をまっすぐ進んだところにあるのが、朱塗りの「二天門」です。

この二天門は、天保11年(1840年)に建立された弁柄塗りの門で、右手に持国天、左手に毘沙門天が祀られています。

なお妙本寺にはこの二門だけでなく、もう一つ門があります。それが、総門の左手にある「方丈門」。方丈門の手前を左手へ進むと、妙本寺の鎮守さまである蛇苦止大明神が祀られていある「蛇苦止堂(じゃくしどう)」があります。

鎌倉最大級の木造寺院建築・祖師堂

方丈門をくぐって進むと左手あるのが本堂。本堂には室町時代に造られた宝冠釈迦如来坐像、日蓮聖人像、四菩薩像などが祀られています。

本堂の隣には寺務所・書院があり、こちらで御朱印をいただくことができるほか、書院では年間を通じて写経道場も開かれています。

本堂、そして二天門を過ぎると、境内の正面に堂々とした佇まいで鎮座する祖師堂が現れます。

現在の祖師堂は天保9年(1838年)に建立され、鎌倉市の木造宗教建築の中でも最大級の大きさを誇り、圧倒的な存在感を放ちます。
堂内には、日蓮の生前の姿をうつした三体の像の一つといわれる座像が祀られています。この日蓮聖人像は、日蓮聖人存命中に刻まれたと伝えられ、「壽像の祖師」と呼ばれています。

歴史を物語る史跡、一幡之君袖塚・比企一族の墓

冒頭でお話したように、妙本寺は比企の乱で没した比企一族の菩提を弔うため、比企能員の末子・能本が、自分の屋敷を日蓮聖人に献上したのがはじまりといわれています。
境内には、その歴史を物語る史跡も存在します。

まず二天門をくぐると右手にあるのが「一幡之君袖塚」。鎌倉幕府二代将軍・源頼家の子で、比企能員の娘を母とする一幡が、比企の乱で幼くして亡くなった際、焼け跡から見つかった袖が祀られていると言われています。

袖塚の奥には、比企の乱で没した比企一族の墓があります。

周りの緑と同化し苔むす史跡に、この地が歩んできた物語と時間の流れを感じ、静かに手を合わせたくなります。

「花の寺」妙本寺

四季折々の花が楽しめることでも知られる妙本寺。
境内・祖師堂の前庭には、ソメイヨシノや八重桜、海棠などの木々が広がり、春の見頃になると薄紅色の花が境内を彩ります。周囲の深い新緑とのコントラストが見事です。

妙本寺の海棠は、鎌倉に長く住んだ批評家・小林秀雄の随筆「中原中也との思ひ出」の中にも登場します。晩春に、小林秀雄と中原中也が境内に並んで座って、海棠が散るのを静かに眺める様子が書かれています。

祖師堂に向かって左手にあり、境内を見守るように立っているのが、大きな日蓮聖人の銅像です。こちらは永代供養塔の「永縁廟」ともなっています。背後の新緑、そして満開の桜に包まれた日蓮聖人の像は、見事な風景です。

銅像のすぐ隣にあるのが「宗祖讃歎之碑(しゅうそさんだんのひ)」。大正、昭和に活躍した漢学者・塚本柳斉の詩碑です。

谷戸の緑に包まれた境内

谷戸に建つ妙本寺は、境内から周囲を見渡すと向こうのほうまで深い緑に囲まれています。

鎌倉駅からほど近い場所にありながら、豊かな木々に囲まれた妙本寺。駅周辺の賑やかさが嘘のような静けさです。

境内に咲く花々を愛でながら、境内の木々の中をゆっくり散策していると、せわしなく過ごす日常から少し解放され、心が徐々に静まっていきます。

春から夏にかけて青々と茂るカエデの木々は、秋になると鮮やかな紅葉を見せてくれます。ぜひ歴史を感じるとともに、四季折々の表情豊かな自然の景観を楽しんでみてはいかがでしょうか。

寺院名妙本寺
住所〒248-0007
神奈川県鎌倉市大町1丁目15-1
電話番号0467-22-0777
URLhttps://www.myohonji.or.jp/
記事を書いた人
逗子在住。外資系出版社勤務の傍ら、2016年よりライターとして活動開始。2020年2月よりフリーランス。街角の園芸活動や植物に魅了され「路上園芸学会」を名乗り魅力を発信。 ウェブメディアを中心に、街歩きや植物に関する取材記事、インタビュー記事などを執筆。2016年よりデザイナーの藤田泰実とともに路上観察ユニット「SABOTENS」としても活動。組み合わせると路上園芸の風景が作れる「家ンゲイはんこ」の制作や、国内外での作品展示・グッズ販売を行う。