路地裏に灯るあかり―地元の人と過ごす、鎌倉の夜時間
── 鎌倉は、夜こそ楽しい。
日帰りで訪れる人が多い鎌倉ですが、実は“居酒屋ホッピング”も楽しめる街だと知っていますか。昼に比べて店の数は少ないものの、明かりがともるのはどれも味わい深い名店ばかり。
今回は、鎌倉の夜をよく知る一人にガイドをお願いしました。正木涼さん――2025年3月まで小町通りで居酒屋「鎌倉飲茶」を営んでいた元店主です。遅くまで営業していたことから近隣の飲食店スタッフが集い、その縁で正木さん自身も自然と夜の飲み歩きに詳しくなったといいます。
そんな正木さんが選んだのは、地元の常連に愛される路地裏の3軒。観光だけでは味わえない、鎌倉の“夜の顔”をのぞいてみませんか。
▼今回の案内人:正木 涼(まさき・りょう)さん
2025年3月まで、小町通りで居酒屋「鎌倉飲茶」を営んでいた。深夜まで営業していたことから、周辺の飲食店スタッフが多く集まり、地元の“夜の顔”に詳しい存在に。自身の店のオープン前に早い時間から営業している居酒屋や飲食店を巡ることも多く、鎌倉の夜を誰よりも知る人物のひとり。

1軒目:野分
――鎌倉野菜のアテで一杯

「ここはつまみがおいしいんです」――正木さんが最初に向かったのは「野分(のわけ)」。鎌倉駅西口から御成通りを少し歩き、一本脇道に入った先に暖簾を掲げる小さな居酒屋です。
カウンターと小上がりがあるだけのこぢんまりとした店内に、肩の力が抜けた温かさが漂っています。平日の夜でも常連でいっぱいになることも珍しくなく、空席を見つけられたらちょっと運がいい。実は午後3時から開いているので、日が暮れる前の一杯を楽しむのもおすすめです。まだ明るい時間帯に盃を傾けると、旅の特別感がぐっと増すような気がします。
この店に正木さんが通いはじめたのは、店長の武史さんがきっかけ。かつて「鎌倉飲茶」で営業を終えた武史さんがふらりと顔を出す常連だったそうで、その縁から正木さん自身も足を運ぶようになりました。居酒屋同士のつながりが、鎌倉の夜をさらに豊かにしているのです。
野分の魅力は、なんといっても旬の食材を生かした料理。仕入れごとにメニューが変わり、「何を頼んでも外れがない」と正木さんは太鼓判を押します。

この日まず出てきたのは、鎌倉野菜を使った一皿。キュウリとピーマンに自家製の肉ごぼう味噌を添えたものは、しゃきっとした歯ざわりと味噌のコクが絶妙で、思わずお酒が進んでしまいます。続いて運ばれてきたのは、つややかな丸ごとトマトの三杯酢。口に入れるとみずみずしさが弾け、さっぱりとした酸味が広がります。トマトハイと合わせれば、「飲んでいるのに体にいいことをしている」ような不思議な気分に。「ここは揚げ物もおいしいんですよ」と正木さん。次回はぜひ、熱々の天ぷらやフライも味わいたいところです。

ちなみに「野分」は、実は姉妹店を持っています。東口「丸七商店街」の立ち飲み焼き鳥店「天昇」や、家庭料理をテーマにした「野分本店」も同じ系列。いずれも人気店で、一晩で全店をめぐるのは難しいですが、是非足を運んでもらいたいお店です。

2軒目:鎌倉俱楽部 茶寮小町
――茶葉とお酒が出会う、「茶クテル」の夜

2軒目は小町通り方面へ。人通りの多い通りから、若宮大路へ抜ける小さな路地に入ったところに「鎌倉俱楽部 茶寮小町」はあります。少し奥まった入り口が隠れ家のようで、夜の散策にぴったりです。
昼間は、丁寧に淹れた日本茶や季節のパフェを味わえるカフェとして人気の店。けれど夜になるとその姿は変わり、ここでしか出会えない「茶クテル(chacktail)」が登場します。抹茶ビールをはじめ、水出し煎茶にミカン酒とジンを合わせた一杯、ほうじ茶とシェリー樽熟成焼酎の意外な組み合わせなど、メニューを眺めているだけで試してみたくなるラインナップばかりです。カウンターに座り、グラスの中で日本茶とお酒が溶け合う様子を眺める時間は、まさにこの店ならではの体験です。

「茶クテル」は、注文が入るとまず茶葉を量るところから始まります。計量された茶葉は一度ゲストの前に置かれ、形や香りをじっくりと味わうひとときが用意されています。普段は気に留めない茶葉そのものを、こうして間近で眺めるのは新鮮な体験。そこから水出しや湯出しで丁寧に旨みを引き出し、最後にお酒と合わせて一杯が完成します。グラスに注がれるまでの一連の所作は、まるで小さな舞台を見ているかのようで、待つ時間さえも贅沢に感じられます。

例えば、水出し煎茶にミカン酒とジンを合わせたカクテルは、緑とオレンジ色のコントラストが鮮やか。口に含めば柑橘の香りの奥から煎茶の爽やかさが立ち上り、驚くほどバランスのとれた味わいが広がります。抹茶とミルクにラムを合わせた温かいカクテルは、冬の夜にぴったり。湯気と一緒に立ち上る甘やかな香りに包まれると、ほっとするような安らぎを感じます。

こうした「茶クテル」を生み出しているのは、店主の齊藤亜紀さん。長年お茶問屋に勤めてきた経歴をもち、まさに“お茶のプロフェッショナル”です。香りの共通点や、意外な組み合わせから着想を得て、少しずつメニューを広げてきたといいます。ひと口飲むごとに「こんな組み合わせがあったのか」と新鮮な驚きがあるのも、この店の魅力です。
つまみのメニューも少し用意されていますが、一杯をゆっくりと味わうだけで満足度の高い時間に。正木さんも「お気に入りの店の一つです」と話します。静かに過ごせる雰囲気と、お茶の奥深さに触れられる一夜は、まさに“鎌倉の豊かな晩”と呼ぶにふさわしいものでしょう。

店の奥は茶葉の販売とギャラリースペースになっていて、全国各地の作家による器やアクセサリーが展示・販売されています。気に入った茶葉を購入したり、旅の記念にひとつ作品を選んだり。飲むだけでなく「持ち帰れる体験」があるのも、この店ならではです。
3軒目:鎌倉チャンプル
――夜風とともに味わう沖縄料理

3軒目は「鎌倉チャンプル」。小町通りから一本入った路地にある建物の3階にあり、この一帯は夜遅くまで営業している“ディープ鎌倉”ともいえるエリアです。
店内に足を踏み入れると、週の半ばの夜にもかかわらず、地元の人たちで大にぎわい。沖縄料理を中心に豊富なメニューが揃い、価格帯も気負わず楽しめるのがうれしいところです。

通されたのは、オリオンビールの提灯が揺れるテラス席。鎌倉の夜は夏でも海風が心地よく、涼やかな空気のなかで飲むオリオンビールは格別。地元感あふれる夜を味わえます。
料理はおつまみからしっかり食事まで幅広く揃っており、何を頼もうか迷ってしまうほど。この日は「おすすめ」マークのついたメニューから、もずくの天ぷらと島焼きそばを注文しました。紅ショウガが効いたもずくの天ぷらは、サクッと軽やかでビールのお供にぴったり。島焼きそばは安心感のあるおいしさで、〆にふさわしい一皿でした。

終電まで味わいたい、鎌倉の夜
昼の観光地として知られる鎌倉も、夜になれば路地のあちこちに小さな灯りがともり、また違った顔を見せてくれます。地元の人たちが集う居酒屋、静かにお茶とお酒を楽しむ空間、そして活気あふれる沖縄料理店。3軒を巡っただけでも、夜の鎌倉にはこんなにも多彩な表情があるのだと気づかされます。
正木さんの案内で歩いた路地裏は、観光マップには載らないけれど、確かにここに暮らす人々の息づかいがある場所でした。
日帰りの旅では見過ごしてしまうかもしれない“鎌倉の夜”。ぜひ一度は終電まで過ごしてみてください。

【今回お邪魔したお店】
野分
住所 | 神奈川県鎌倉市御成町9−6 |
営業時間 | 15:00〜22:00 |
定休日 | 月曜日 |
支払方法 | 現金のみ |

鎌倉俱楽部 茶寮小町
住所 | 神奈川県鎌倉市小町2-10-19 二ノ鳥居ビル 1F |
営業時間 | 11:00~17:30,18:00~22:00 |
定休日 | 木曜日 |
支払方法 | カード、電子マネー、QRコード可 |

鎌倉チャンプル
住所 | 神奈川県鎌倉市小町2丁目9−6 |
営業時間 | 17:00~24:00 ※日曜は15:00~22:00 |
定休日 | 火曜日 |
支払方法 | 現金、PayPay |

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