オーバーツーリズムの鎌倉で、“持続可能なお祭り”を。稲村ヶ崎「なみぼん」に見る新しい共存のかたち

海や古都の風景を求めて、多くの人が訪れる鎌倉。
けれど、その賑わいの裏で、オーバーツーリズムやごみ放置などの問題もたびたび指摘されています。とはいえ、「観光そのものが悪い」わけではありません。
どうすれば“訪れる人も、暮らす人も、心地よく過ごせる街”でいられるのか――。
10月18日(土)に稲村ヶ崎公園で開かれるイベント「なみおと盆踊り祭(通称:なみぼん)」では、そんな問いに向き合いながら、地域にも観光客にも開かれたお祭りを実践しています。
「絶景と踊ろう」ー鎌倉・稲村ヶ崎から生まれた、環境を想う盆踊り

「なみぼん」は、生演奏で楽しむ盆踊りを中心に、音楽ステージや出店などが並ぶお祭りです。
2022年に始まり、今年で4回目。新型コロナウイルス禍で地域のお祭りができなくなった時期に、「子どもたちに少しでも楽しい時間を」と、地域の人たちが立ち上げました。
キャッチコピーは「絶景と踊ろう」。
会場の稲村ヶ崎公園は、由比ヶ浜と七里ヶ浜のあいだに位置し、晴れた日には江の島や富士山まで見渡せる、まさに「絶景」スポット。地域の人の憩いの場でもあります。
そんな場所で開くお祭りだからこそ、「なみぼん」には最初から環境へのまなざしがありました。
主催者のひとり、小川コータさんはこう話します。
小川コータさん
「僕たちのお祭りは海の近くでやっていて、『海の景色が素晴らしいね』って言ってるけれど、それは当たり前じゃない。日々、海のごみを目にするし、稲村ヶ崎公園をお借りしている以上、景色を守りながら続けていくことが大事だと思っています。海にごみが飛んでいくようなことがあってはならないんです」
出店者も、来場者も。みんなでつくる“ごみを出さない”挑戦

なみぼんでは、環境を守るためにさまざまな取り組みを展開しています。
まず、会場にはごみ箱がありません。来場者はなるべく自分でごみを持ち帰るスタイルです。
出店するキッチンカーや屋台も、プラスチック容器の使用はNG。できるだけごみが出にくい形態での出店をお願いしているといいます。
実行委員で、環境面の取り組みを担当する小林ななみさんはこう話します。
小林ななみさん
「プラスチックを使わないのは大前提。そのうえで、容器などにどのような工夫をしているかを出店基準の一つにさせてもらっています。エントリー時に“(環境に対して)どんな取り組みをしているか”“どんなカップを使う予定か”などを記入してもらっています」
2024年には、NPO法人・遊風の協力のもと、イベントで発生したごみの量を可視化しました。その結果、合計87kgのごみのうち、容器ごみが27kgを占めていることが判明。そこで今年は容器ごみを減らすため、一部の店舗でリサイクル容器を導入します。
リサイクル容器は合計580個を使用予定で、出店する飲食店11店舗のうち6店舗が協力を決めました。これによって、約14.5kgのごみ削減を見込んでいます。2026年には、すべての飲食店舗での導入を目指しているそうです。
リサイクル容器には1個あたり50円のコストがかかり、使い捨てよりも出店者の負担が大きくなります。それでも、多くの店舗が快く賛同してくれたといいます。
小林ななみさん
「『なみぼんがやるなら、やります!』と前向きに受け入れてくれて。趣旨を説明すると、みんな納得してくれました」
最初から“環境を大切にするお祭り”として続けてきたからこそ、その思いに共感して動く仲間が年々増えているのでしょう。
海を想う「かまくらスチールカップ」が広げるやさしい循環

2024年には、来場者にも環境のためのアクションを呼びかけました。リサイクルカップ「かまくらスチールカップ」の導入です。
このカップは鉄製で、使用後に返却すると鉄のかたまり(鉄団子)に加工されます。これを海に戻すと鉄分が藻の再生を助け、環境保全の一助になる――という循環型の仕組みになっています。
カップは、江の島やヨットなど、湘南エリアをモチーフにしたイラストが描かれたかわいらしいデザイン。鉄は熱伝導性が高いため、飲み物を注ぐとすぐにカップ全体がひんやりと冷たくなるのも特徴です。
昨年、このスチールカップは約450個が販売されました。来場者数は約3000人だったので、かなり多くの人が購入したことになります。
環境を大切にするという「なみぼん」の姿勢が、来場者にも自然と伝わっているようです。
カップは今年も販売を予定しています。思い出として持ち帰っても、会場で回収してもらっても大丈夫。鎌倉の海を感じながら、ぜひ一つ手に取ってみてはいかがでしょうか。
お祭りの前後も、海と向き合う
さらに、環境への取り組みはイベント当日だけにとどまりません。
昨年出たごみの量と同等の90kgを拾うことを目標に、ビーチクリーン活動も行っています。
この活動は、なみぼんの実行委員だけでなく、地域で活動する複数のビーチクリーン団体と協力して実施しており、誰でも参加可能です。多いときには50人規模で開催され、これまでに40kg以上のごみを集めたといいます。
90kgの達成まではもう少しかかりそうですが、主催者の一人・とまそんさんはこう話します。
とまそんさん
「海をきれいにしていくにも、目標を持って取り組むことで達成感があったり、たどり着けなくても、それはそれで次の楽しみになる。そんな風に、面白がりながらやっています」
環境への意識が育つ街

鎌倉は環境意識が高い街と言われています。
海辺ではビーチクリーンの活動があちこちで行われ、お店を営む人や、暮らす人の多くも自然と「環境を意識する暮らし」を大切にしています。
なみぼんの実行委員・小林ななみさんは、都内から鎌倉へ移り住み、暮らすうちに考え方が変わっていったといいます。
小林ななみさん
「以前住んでいた都内ではごみの分別がそこまで細かくなかったんですが、鎌倉市は項目が多く、最初は正直面倒に思っていました。けれど、それには理由がある。そのおかげで、鎌倉市のリサイクル率は人口10万人以上50万人未満の市の中で全国1位なんです。環境問題に取り組む人たちとの出会いも、意識を変えるきっかけになりました」
環境に対するまなざしが自然と育まれていく――。鎌倉という街そのものが、人の意識を変えていく場所なのかもしれません。
地元と旅人が混ざり合う、“鎌倉らしいお祭り”

まさに「なみぼん」も、そうした“気づきの場”を目指しています。実行委員のとまそんさんはこう話します。
とまそんさん
「環境へのアクションって、人によって考え方や感じ方が違うんですよね。これが正しいと言っても、別の角度から見ればそうじゃないこともある。だからこそ、“正解を決めること”よりも、“考えるきっかけになること”を大事にしています。たとえば、ごみを拾うことで、自分が普段どんなごみを出しているのかに気づく。そうした気づきの場に『なみぼん』がなってくれたらいいなと思います」
「盆踊りイベント」と聞くと地元の人だけの集まりのようにも感じるかもしれませんが、なみぼんは地域の人も、観光で訪れる人も歓迎しています。
小川コータさん
「地元の人ばかりでも、外の人ばかりでもなく、その“程よいミックスバランス”が大事なんです。外から来た人が“こんな素敵なイベントを地元の人がやってるんだ”と思ってくれたら嬉しいですね」
“楽しむこと”と“考えること”を同じ場所に並べてみる。
なみぼんは、そんな鎌倉らしいお祭りとして、地域と訪れる人の心をゆるやかにつないでいます。
【なみぼん2025開催概要】
日時 | 2025年10月18日(土)11:00~19:00 |
場所 | 稲村ケ崎公園(江ノ電「稲村ケ崎駅」から徒歩7分) |
入場料 | 無料(500円~ の「なみぼんうちわ」の購入を推奨) |
ウェブサイト | https://namibon.net/ |
主催 | なみおと盆踊り祭実行委員会 |
後援 | 鎌倉市、鎌倉市教育委員会、環境省 |
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