雑貨

鎌倉をまとう。小さなフレグランス店「HATAGO」に宿る偶然と必然

2025.10.10

鎌倉駅西口から南へ数分。東西に走る「由比ガ浜大通り」は、カフェや雑貨店が点在する散策向きのエリアです。歩いていると、ふと足を止めたくなるような、不思議と惹きつけられる香りが風に混じって届いてくる場所があります。その源は、小さなフレグランス店「HATAGO」。2025年8月に生まれた、鎌倉の新しい寄り道スポットです。

香りで鎌倉を旅する

HATAGOの外観。「香りに吸い寄せられるように入ってきてくれるお客さんもいる」と言います。

ここは、単なる香水屋ではありません。コンセプトは“香りで鎌倉を体験する”。並ぶのは「鎌倉」「由比ヶ浜」「稲村ケ崎」「七里ガ浜」――どれも、鎌倉の地名をモチーフにした香りです。

「鎌倉って、駅から海までのわずか15分の道のりでも、空気感が全然違うんですよね。その違いを香りで表現できたら、鎌倉の魅力をもっと自由に楽しんでもらえると思ったんです」

そう話すのは、創業者の野口大介さんです。もともとは広告代理店に勤めていましたが、このアイデアを形にするために独立を決意しました。

「アイデアって、思いついた時点で他の誰かも考えているもの。他の人に先を越される前に、自分で挑戦しようと思ったんです」

野口さんの言葉からは、鎌倉への思いと同時に、立ち上げの熱量が伝わってきます。

“言葉から香りをつくる”挑戦

創業者の野口大介さん。両親の鎌倉移住を機に、鎌倉へ頻繁に足を運ぶようになったといいます。

野口さんは「広告の仕事とフレグランスづくりは、実は似ている」と言います。

広告では「この商品の良さをどう伝えるか?」という What と How を突き詰めます。何を伝えるか(What)、どう表現すれば人の心に届くか(How)。その発想をフレグランスづくりに置き換えたのです。

「鎌倉とは何か? 稲村ケ崎とは何か?」を言語化するのが What。そして、それを香りとして表現するのが How。これまで培った広告の視点が、香りの設計に生かされていきました。

例えば「鎌倉」の香りは、海と街と欲と文化が溶け込むさまを表現したといいます。

古くからの歴史を持つ街でありながら、新しいものも次々と取り込んでいく。その二面性を、香りへと落とし込みました。海を海藻やアクアティックで、モダンな街をコーヒーで、懐かしさや温かみをスイカや梨で表現。北鎌倉の山々を思わせるユーカリも加え、鎌倉らしい“融合の香り”を完成させました。

この言語化の作業のために、野口さんは何度も現地を歩き、土地の空気を確かめました。

例えば由比ガ浜では、浜辺に刻まれた若者の相合傘の隣を、老夫婦が手を取り合って歩く光景に出会います。世代を超えて青春に戻れる、若さとノスタルジックを合わせた寛容さを持つ海。そんな情景を「由比ガ浜」の香りに込めました。

ほかの香りも、野口さんが歩いて見つけた風景や言葉から生まれています。そのストーリーは、ぜひ店頭で確かめてみてください。

パリの調香師が閉じ込めた、鎌倉の空気

商品ラインナップは、フレグランスディフューザーとフレグランスミストの2種類。香りは4種類です。近く、五つ目の香りも誕生するとか。

実は、この香りは野口さん自身が調香しているわけではありません。想いを香りに変えてくれる、心強い伴走者との出会いがありました。

独立したものの、香水づくりは未経験だった野口さん。手がかりを求めて訪れた香水イベント「サロンドパルファン」で出会ったのが、ニッチフレグランスブランド「çanoma(サノマ)」を立ち上げた香水クリエイター・渡辺裕太さんでした。

投資銀行出身という異色の経歴を持ちながら、香りの世界へ飛び込んだ渡辺さん。その姿は、独立したばかりの野口さんとどこか重なります。偶然にも自宅が徒歩圏内という縁があり、二人は意気投合。野口さんが思い描いていた構想を語ると、渡辺さんはその挑戦に伴走することを決めました。さらに、渡辺さんとともに活動しているパリの調香師ジャン=ミッシェル・デュリエが加わり、香りづくりは動き出します。

世界的な調香師が鎌倉の空気感を香りに閉じ込める――。「HATAGO」の小さな瓶には、偶然と必然が折り重なった物語が宿っているのです。

導かれるように出会った、理想の場所

HATAGOには、店舗選びにも運命を思わせるエピソードがあります。まずはオンラインだけで販売するという選択肢もあったはずですが、野口さんは迷わず「店舗を持つ」と決めました。

「土地の香りを嗅ぐって、誰もしたことのない体験ですよね。その香りに触れることで、その土地のイメージがふわっと広がる。鎌倉好きの人たちが、まだ出会ったことのない香りに喜んでくれる。そんな舞台をつくりたいと思ったんです」

その舞台にふさわしい場所として選んだのが、由比ガ浜大通り。観光の喧騒から少し外れ、地元の人も行き交うこの通りは、野口さん自身のお気に入りでもありました。「ここなら香りをゆっくり体験してもらえる」と確信したといいます。

とはいえ、物件探しは難航しました。野口さんには「ここが空いたらいいな」と思う場所がありましたが、人気の通りだけに空きが出る気配はありません。

そんな思いを抱えたまま、「これからこの地で商売を始めるのだから、まずは挨拶を」と鎌倉えびす(本覚寺)に参拝します。商売繁盛のご利益で知られる場所に手を合わせたその晩、不動産屋から届いた連絡は――まさにその物件が空く、という知らせでした。

渡辺さんとの出会い、理想の立地とのご縁。いくつもの偶然と必然が重なって誕生した「HATAGO」。その香りをまとうと、なんだか良いことが起こりそうな気がしてきます。

店名HATAGO KAMAKURA
住所〒248-0014 神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-5-16
営業時間11:00~18:00
定休日火曜日
Instagramhttps://www.instagram.com/hatago_kamakura/
Websitehttps://hatago.shop/

記事を書いた人
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